パッド印刷(別名:タンポ印刷)は、約60年前にドイツのタンポ社により技術確立され時計業界を中心に広がった特殊印刷工法です。
印刷カテゴリーとしては、絵柄がエッチングされた凹版のインクをシリコンパッドが拾い、被印刷物に転写を行うため、オフセット印刷の1種とされています。
最大の特徴は、弾力のあるシリコン製パッドを使用することにより、【曲面に印刷することが出来る】ことです。
その他、他の印刷工法と比較して微細文字が得意な事も特徴です。
2. パッド印刷が使われている製品
「パッド印刷」という言葉を聞いたことある方は少ないと思いますが、
身の回りにある多くの商品に使用されています。
どんな商品に採用されているか、一部ご紹介いたします。
・自動車/バイク:ウインカーレバー、カーオーディオスイッチ、ハザードボタン、パワーウィンドウボタンなど
・医療:錠剤、注射器、カテーテル、医療機器など
・電気製品:携帯電話、キーボード、マウス、リモコン、炊飯器目盛りなど
・オフィス /文房具:コピー機のボタン、ペン、ホチキスなど
・スポーツ:ゴルフボール、卓球のボール、野球バット・ボールなど
・その他:時計の文字盤、シューズのインソール、グラス/水筒のロゴ、ノベルティー商品など
3. 印刷のしくみ
パッド印刷の種類は、オープン式・カップ式の2種類ありますが、
ここでは一般的に普及しているオープン式で説明させていただきます。
下記がパッド印刷の基本的な動きです。
1. インクを版(緑色部分)の上にかぶせる
2. ブレード(刃物)で版上のインクを掻く = 版上の凹部分(絵柄)だけにインクが残る
3. シリコン製のパッドで凹部分のインクを拾う
4. 拾ったインクを製品に転写する
実際の動画をご覧ください。
ガラス容器の裏側に、パッド印刷でグラデーション模様を印刷をしている様子です。
さらに、シリコンパッドを特殊形状にすることにより、高低差のある面へ一度押しも可能です。
いかがでしょうか?
曲面への印刷を可能にする「パッド印刷」、その仕組みをご理解いただけたかと思います。
4. 印刷に必要なもの
次に、パッド印刷工法で印刷する際に必要なものをご紹介いたします。
スチール版
パッド印刷には、印刷デザインが凹状に加工された版が必要となり、
基本的にデザイン1つに対して1つの版が必要となります。
印刷する数量によって材質を選定しますが、一般的に使用されている金属版では、
0.5mm厚のもので50,000ショット、10mm厚のもので50万ショットほど使用が可能です。
デザインの入稿は、基本的にイラストレーターデータで支給頂きますが、
画像データしかない場合、現物しかない、その他デザインの編集をお手伝いすることも可能です。
シリコンパッド
印刷版から対象物にインクを運ぶ役割を担うシリコンパッド。
使用するインクや印刷対象物の形状、固さ、印刷範囲により、適正なパッドを選定することが印刷の綺麗さに直結します。当社は、材質12種類に対して硬度が4種類あり、形状は400種類を保有しており、都度適正なパッドを選んでいます。(お客様に選んでいただくことはございませんので、ご安心ください)
形状カタログは公開しておりますので、ご興味のある方はご覧ください。パッド形状リスト
治具
治具は、印刷対象製品を固定し、繰り返し同じ位置に印刷できるように受ける(固定する) という大事な役割のを担います。
機械や資材などその他の要因が完璧でも、治具の精度が不十分な場合、綺麗な印刷することはできません。
ゴルフボールなど底面が球体状・曲面のものは、治具がないと印刷が出来ないという事は想像がしやすいと思います。
商品の材質・形状・印刷方法などを考慮して最適な治具設計をします。
印刷数量が少ない場合、治具に費用を掛けきれない場合もあるため、可能な場合は簡易治具も検討します。
その他、治具が必要ないケースもありますので、都度ご相談ください。
治具に関する詳細記事はこちら↓
インク
プラスチック、ガラス、木材、布、金属など幅広い製品に使用することが可能なパッド印刷ですが、
印刷対象物の材質に合わせて適正のあるインクを選定する必要があります。
さらに特定の耐性が必要なのかということも踏まえて選定します。
例えば、化粧品容器向けではアルコール耐性、アウトドア用品では耐候性などの例があります。
そのため、印刷のご相談を頂いた際に、
「製品の材質はなんですか?」
「プラスチックの名称(例:ABSやPPなど)は分かりますか?」
「どのようなものを入れる容器ですか、特別な耐性は必要ですか?」
「塗装はされていますか?」
など、詳しく製品の情報を聞かせて頂きます。
それは、適正な密着が期待できるインクを選定するためとなります。
ネット上で製品を購入して印刷を検討されている場合、プラスチック名称まで分からないことや表記している材質と異なることもありますので、必ず「密着テストを兼ねた試作」をお願いしております。
5. よくあるご質問
印刷のご相談を頂く際に、よくあるご質問を回答させて頂きます。
フルカラーはできますか?
パッド印刷でフルカラーを表現することは不可能ではありませんが、得意とはしていません。
2色・3色は、パッド印刷でも可能ですが、製品・治具の精度が重要となりますので、その点注意が必要です。
パッド印刷とスクリーン印刷、どちらが良いですか?
パッド印刷とスクリーン印刷は、それぞれ優位性が異なるため、
製品や印刷デザインによって最適な方法を選択します。
パッド印刷がスクリーンと比較して優れている点は、下記が挙げられます。
・小さい文字/微細なデザインをくっきり印刷できる
・曲面,凹凸面への印刷ができる
・壁に囲まれた箇所でも印刷できる
逆に、スクリーン印刷が優れている点は、下記です。
・平面や円筒形状に広範囲で印刷ができる
・ベタデザインも得意
・インク膜厚が厚く、布などの生地にもしっかり印刷できる
・特殊インクの選択肢が多い(蓄光、リフレクト、蛍光、鏡面など)
印刷方法の指定がある場合は、そちらで検討させて頂きますが、
特に拘りが無い場合は、印刷のご要望から弊社で選定させて頂きます。
印刷可能な範囲はどれくらいですか?
汎用的なパッド印刷で可能な印刷範囲は、50x120mmほどです。
ただし、印刷箇所の近くに障害物がある場合などは印刷可能範囲が変わるため、厳密には製品・デザインにより異なるというのが答えとなります。
更に、製品形状が円筒形状だったり、球体の場合、歪みが発生するため、印刷可能範囲は狭くなります。
例えばゴルフボールくらいの球体であれば、歪みなく印刷可能な範囲は1円玉くらい(18mmほど)です。
原稿(入稿データ)はどのような形式で準備したら良いですか?
パッド印刷で使用する原稿は、基本的にIllustratorで作成したデータをご用意ください。
画像がある場合は、埋め込み。文字はアウトライン化をしたデータをお送りください。
画像データや印刷物から作成することも可能な場合がありますが、データ作成費が別途必要となります。
どのような材質に印刷することが可能ですか?
プラスチック・ガラス・木材・テキスタイル・金属など、様々な材質に印刷することが可能です。
ただし、製品用途的に必要な密着性や耐性によっては、困難な場合があります。