今回の試作事例は、「スティックタイプのお香」です。いわゆる「お線香」ですね。
前回(PVC製レインブーツ)、前々回(EVA製サンダル)と靴シリーズをご紹介していましたが
今回からはお仏壇シリーズ(+極小印刷シリーズ)がはじまります!(予定です!)
まずはお香について、軽くご説明させていただきますね。
お香の古くから多くの国/文化で使用されてきました。
日本で最も古いお香の記述は「日本書紀」にあるそうです。
その後、貴族や寺院などの上流階級に使用されるようになり、
江戸時代になると庶民の間でも広く使用されるようになったそうです。
次にお香の種類ですが、大きく3種類あります。
● お線香(スティックタイプ)
● 円錐(コーンタイプ)
● 渦巻き型
今回、印刷を行ったのは「お線香(スティックタイプ)」です。
お線香というと、仏事には欠かせないものだと思いますが、
お線香を焚くのにはちゃんと 「 意味 」 があるんですよ。
1. 心や身体を清めるため
お線香には、その香りによって心や身体を清める力があるといわれています。
そのため、亡くなった方へ厳かな気持ちで手を合わせることができるようにするため、
お線香を焚いて穢れを祓って清浄にするそうです。
2. 亡くなった方への食べものとして
仏教には、亡くなった方は「香りを食べる(香食/食香)」という考え方があります。
香食は、仏教経典の1つである阿毘達磨倶舎論(あびだつまくしゃろん)に記載されており、
「亡くなった方が食べられるものは香りだけで、生前に善い行いをした方は良い香りを食べることができる」と記載されているそうです。
よく「四十九日が過ぎるまで線香の火を絶やさないように」といわれますが、これは亡くなった方の食事のためにお線香を焚き、あの世へ導くためともいわれています。
3. あの世とこの世をつなぐため
お線香を焚いた際に立ち上る煙によって、あの世とこの世がつながるといわれています。
また、お線香を焚くことで、煙を通じて亡くなった方やご先祖さまと対話ができる、という意味もあるそうです。
一般にお線香を焚く際に、マッチやライターを使うのはマナー違反とされています(ロウソクを介して火をつけます)。また、息を吹きかけて火を消すのもNGです(仏教では「人間の息は不浄なもの」とされているためです)。
このようなマナーをはじめ、お線香の焚き方や本数なども地域や風習、宗派によって異なり、ルールもたくさんありますが、最近はミニサイズ(短尺)のものや、煙が少ないタイプなど、さまざまなお線香が販売されており、マナーよりも亡くなった方を悼む気持ちが大切、という時代に変化してきたように感じます。
2. 極小印刷とは?
弊社ではさまざまな小さいものにも印刷しておりますので、極小印刷にも知見があります。
今回のお線香にも4ptという非常に小さな文字を印刷していますが、
まずは、印刷に用いられる文字サイズの単位についてお話しさせていただきます。
〔印刷で用いられる文字サイズの単位とは?〕
pxやptなど、色んな単位がありますよね。
弊社のような製版業ですと、文字のサイズ単位は、主に 「 pt 」 や 「 級 」を使います。
pt
「ポイント」と読みます。
1/72インチ(1インチ≒2.54cm)を基準とし、1pt = 0.3528mmになります。
ポイントとは一般的にこの「1pt = 0.3528mm」のことを指し、「DTPポイント」とも呼ばれます。
ちなみにJIS規格では1pt = 0.3514mmと定められており、これを「アメリカン・ポイント」と呼びます。
他にも、ディドー・ポイント、フルニエ・ポイントなどがあります。
級(Q)
写真植字における文字の大きさを表す日本独自の単位のことで、1級は0.25mmです。
1mmの1/4(Quarter)から名付けられたもので、「Q」と表現する会社さんもあります。
4級で1mmとなることから、ミリメートル換算がしやすく、デジタル化した現在でも使われています。
今回は文字サイズの単位について述べさせていただきましたが、
画像などはmm(ミリメートル)で表示させることが多いです。
パッケージ印刷などのデータですと、画像と文字が一緒になっていますので、
いただいたひとつのデータに複数の単位が表示されていることももちろんあります。
つまり、ひとつのデータにメートル法とインチ法が混在しているということです。
こうやって言葉にすると「そんなごちゃまぜになっていたら、
間違った単位でデータを作成してしまうのでは?」と思われるかもしれませんが、
弊社では専門の知識を持った製版オペレーターが版データを作成いたしますのでどうぞご安心ください。
〔印刷に最適な文字サイズとは?〕
カタログやパンフレットなどの紙媒体ですと、
一般的に標準文字サイズは8~9pt、見出しや重要な部分は10~12pt、
文字の識別し易さを考慮すると最小文字サイズは6ptとされています。
5pt以下ですと、フォントによっては文字がつぶれてしまったり、
かすれてしまって、読みづらくなることがあるため、6pt以上が推奨されています。
文字がつぶれるとは?
文字がつぶれるってどういうこと?と思いますよね。
例として、紙媒体への印刷で使用されているオフセット印刷では 「 網点(あみてん) 」
というものを重ねながら色や濃淡を表現しています。
どんな絵柄でも小さい点で表現する必要があるため(一部除く)、
小さい文字や細い線を再現することはむずかしいのです。
網点(あみてん)とは?
印刷にはベタ印刷と、網点印刷というものがあり、
ベタ印刷は、その名のとおりべったり1色の塗りつぶしの印刷になるのですが、
網点印刷では、細かいドットの点在によって色や濃淡を表現します。
網点で印刷を行うことによって、黒いインキでグレー色を表現したり、白~灰色~黒のグラデーションを表現することが可能になります。
こんな感じですね。
網点の濃度はパーセントで表します。0%は空白(印刷なし)、100%はベタ(塗りつぶし)になります。
しかし、網点はドット状になっていますので、
あまりにも文字が小さいとドットで表現することができず、
その結果、文字がつぶれてしまったり、かすれてしまったりします。
ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)
昨今では多様性の観点から「ユニバーサルデザイン(UD)」が注目されています。
Windowsの標準フォントでもUDフォントが追加されていますよね。
ユニバーサルデザインでは、
視認性=認識しやすさ
可読性=読みやすさ
判読性=誤読の少なさ
が重要とされています。
たとえば、未就学児では、小さな文字や漢字を読むことに慣れていませんし、
老眼がある方は、瞬時に焦点を合わせることがむずかしくなります。
印刷デザインを考える際は、どの年齢層に向けたものなのか、
また、どういった目的でのプロダクトなのかを考慮した上で、
フォントサイズやカラー、全体のデザインを決めることをおすすめいたします。
弊社では、こういう場合だと、文字が太りやすい、かすれやすいなどをはじめ、
その他印刷にまつわる対処方法やノウハウがございますので、
何かお困りのことがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
〔印刷工法に応じた最適な文字サイズ〕
さて、続いては印刷工法に応じた最適な印刷サイズをご紹介します。
資材・機械・技術の発展により下記数値よりも細く・小さく印刷する技術は存在しますが、この記事では一般的な数値をご紹介いたします。
シルクスクリーン印刷
スクリーン印刷ではTシャツや看板など、広範囲の印刷は得意ですが、
反面、小さい文字などの印刷はあまり得意ではありませんので、
最低でも5pt以上の文字サイズを推奨いたします。
線幅は、0.15~0.2mm以上を推奨いたします。
パッド印刷
パッド印刷における最適な文字サイズは3pt以上です。
肉眼では読めませんが、1ptの文字を印刷することも技術的には可能です。
線幅は、0.1mm~0.15mm以上を推奨いたします。
ホットスタンプ
ホットスタンプ印刷における最適な文字サイズは4pt以上ですが、
模様や緻密なデザインの表現でしたら、線幅としては3ptまで可能です。
転写印刷
転写印刷というのは、あらかじめ印刷したい絵柄やロゴを転写用フィルムに印刷し、
そのフィルムを熱と圧力で密着させる印刷方法になります。
転写印刷は、細かい文字や繊細の絵柄の表現が得意ではありますが、
最適な文字サイズとしては一般的に5pt以上を推奨しています。
インクジェット
インクジェット印刷では、一般的なカタログやパンフレットへの印刷と同様に
6ptサイズであれば問題ないとされていますが、
フォントによっては文字がつぶれてしまったり、かすれてしまうことがございます。
詳しくはお問い合わせください。
〔どれくらい小さな文字を印刷できるの?〕
弊社では「こんな小さなものにも印刷できるんです!」
という技術力をお披露目(?)するために、
社内試作としてさまざまな小さなものへ印刷してきましたので、一部をご紹介いたします。
耳かきへの印刷 〔文字サイズ:1pt〕
お米粒への印刷 〔文字サイズ:1pt〕
ユニバーサルデザインとは程遠く、肉眼では読むことがむずかしいですが、
むしろ読めないくらい小さい文字を印刷したい!
というご要望があるようでしたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
3. スティックタイプのお香への印刷結果
さて、今回の試作事例をご紹介いたします。
印刷はパッド印刷工法で行いました。
一般的なお線香は円柱型ですので、側面の印刷部分はもちろん曲面になっています。
こういったところに印刷できるのはパッド印刷ならではの強みです。
今回は、ワインレッド色のお線香に合うように白色のインクで印刷を行っていますが、
ゴールドやオレンジなどもっと華やかな明るいお色で印刷することも可能です。
また、香りの種類やロゴはもちろん、だいじな方へのメッセージや戒名を印刷することもできます。
お線香への印刷をご希望の方はぜひお気軽にお問い合わせください。